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Kabamyレポート(第三十二回)二〇一八年十二月十五日(土)
 於かたらいの道・市民スペース(第2会議室)
 

【参加者】高柳蕗子、久真八志、飯島章友、屋上エデン、高村七子、吉川満、TOMO、鳩、田中エリス(ゲスト)

 

今回のテーマは「ふる歌(そでにする歌)」です。前半では題詠「ふる歌」で歌会を行い、後半では「ふる歌を作るうえで大変だったこと」というテーマで座談会を行いました。

 

〈前半〉歌会
持ち点自由で投票を行いました。


磨墨音(まぼくおん)空にみなぎる今ここでわかれよう青い他人になろう 高柳蕗子
3点。潔さ、清々しさが感じられる。墨を擦る音(磨墨音)で背筋が伸びる感じがするし、墨の色や空とのつながりで「青」のイメージがさわやかになっている。
(作者)赤の他人に対しての青い他人。すべてリセットする青=青空のイメージを利用した。「ここからは関係ない」という感じを意図している。

 

生理的に吐き気催す境まで吾を追ひ詰めし事を知らずや 吉川満
0点。じとっとした感情がにじんでいる。ふる歌という題でなければ、これが「ふる」状況を詠んでいるとは気づきにくい。相手側の感情が分からない点は面白い。
(作者)若山牧水の作風を参考にした。一方的に相手に責任を押し付ける、感情をぶつけるようなやり方にした。

 

君に全部決めてもらってた恋愛の最後は自分で決めた さよなら TOMO
1点。二人の関係性がきちんとわかる内容で、題にきちんと答えていた。一字空けに決意が表現されておりよい。説明に終始してしまった感もある。
(作者)主体があまり身勝手な印象にならないように、受け身から能動的な態度に変わる様を描いた。もっと具体的なエピソードで表現できればよかったかもしれない。

 

照準を遠く合わせばすがる眼の君は追ひたり蝶の残像 田中エリス
0点。「照準」が何を意味しているのか。望遠鏡か、単に注目していることを指しているのかがわかりにくい。また照準を合わせているのは君なのか主体なのか。蝶の残像は君の未練を表しているのだろう。
(作者)「照準を遠く合わせば」は、自分が遠くに目を向けており、君を見ていないことを書いている。蝶の残像は、君が思いを寄せている私の美しい姿である。

 

ほんとうは全然興味なんて無いあんたの妻にもバター犬にも 鳩
2点。不倫の状況を想像する。啖呵を切った感じが面白い。主体と「あんた」との関係性がよく見える。登場人物は多いがうまく収まっている。
(作者)不倫ではなく、言い寄られたところをすっぱり断る状況を想定して詠んだ。

 

あなたとは恐竜展に行きません ひとつの恋が絶滅した日 屋上エデン
4点。わかりやすく、笑いもある。またかわいらしい。絶滅はやりすぎかもしれない。例えば恐竜展に行こうなどとするやり方もあったのでは。
(作者)しめっぽくならないように、事実を並べるような書き方にしてみた。恐竜を出すことでファンタジーな雰囲気も狙った。下句をもう少し進化させられるという意見があったので、試してみたい。

 

婚約の破棄を告げようきっちりと全身タイツ姿になって 飯島章友
4点。相手の予想を上回ることで逆に謝罪も受け入れやすくなる、妙な決意の強さを感じさせる。離婚の重さとやっていることのギャップが面白い。
(作者)やさしさの歌として作った。婚約の破棄に際してどうすれば相手を傷つけないかを考えてみた。

 

眠る妻にわかれようかと何度か言う青い火のようにひらく妻の眼 久真八志
2点。工夫なく言い述べたような下句の字余りがねばっこく、情景と調和している。夫の内側にある恐怖を投影している。
(作者)身勝手な主人公がいて、それを見ている目線によって身勝手さを指摘されるところまで書きオチにしようとした。「やすらかに眠る妻」を見ている構図の類想歌が多いので、不穏な感じにしてみた。

 

自分から告げた別れを美しいものにするため聴くオフコース 高村七子
2点。思い出を美化する身勝手さがあり面白い。オフコースのチョイスで美しさの方向性もわかるし、共感もできる。
(作者)曲は「サヨナラ」のつもりだったが、他の参加者から出た「秋の気配」でもよさそう。主体の身勝手さを出したかった。こういう人がいるなと読者に感じてもらえるとよい。

 


〈後半〉座談会


・ふる歌のパターンとしては、古典的・ベタな別れの型を使うもの、加害の感情を高めた詠いぶりをするもの、ずるずると冷めた感情を詠ってリアリティを出していくもの、他の要素でネガティブさを中和して取り合わせの面白さを狙うものなどがあった。
・「ふる」は主体の身勝手さを感じさせ、暗い気持ちでもあるので読者にネガティブな印象を与えやすい。それを滑稽味やさわやかさで中和しようとしている歌が多かった。
・「自分に好意を持っている相手に別れを告げている、別れる態度を見せる」という状況を正しく伝えるのは難しい。状況説明に字数を割くことに終始してしまいがち。
・今回提出された歌のうち二首で「青」を使ったものがあった。事前に配った参考資料も含め「ふる」歌は青が多くなる傾向があるかもしれない。
熱っぽい「赤」に対して、冷めた感じは「青」の方が表現しやすいのではないか。また、涙などとのイメージもつながるからではないか。
・「ふる」形態はもっといろいろあるはず。実際にふる時は、例えば連絡をあまり取らなくなり自然消滅的に別れるなど、熱が冷めている場合もある。最近ではSNSでブロックすることもあるだろう。ただそのようなケースを想定したとき、主体の感情の高まりがあまりないので、短歌にしにくいのではないか。

 


〈参加者より〉
・「ふる」ということに対して自分も含めてイメージが貧困だったと思う。
「ふる」シチュエーションとその前後のいきさつって、すごくたくさんあり得る、と、あとからいろいろ思い浮かんだ。「ふる歌」という題に対して、9人が思い浮かべた「ふる」はごく狭い範囲のものだったと思う。
「たくさんあり得る」の一例をあげるなら、「ふる」のは踏まねばならない別れのステップとも言えるケースがある。両方で別れたくなっているとき、いかに相手に「ふる」役目をおしつけるか、ババ抜きの終わりごろのババを相手に引かせる駆け引きさながら、心の損得を一円単位まで割り勘にする攻防、みたいなものは歌のだいごみになり得る。こういうふうに、もっと「ふる」にはいろいろあり得るのにイメージが貧困だった、ということは、歌の題材としての「ふる」がこれから成長するのを楽しみにできるということだ。
・別れようと思う側はそもそも関係への熱量が低くなっていることが多く、感情の高ぶりみたいな短歌得意の方向性が難しいのではという意見があった。でもそういう低い熱量の時の、特有の感情を詠うこともできそうだ、という話になり生産的でした。
        
(記/久真八志)
 

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