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Kabamyレポート(第二十八回)二〇一八年二月十二日(月)
 於あんさんぶる荻窪(第1会議室)
 

【参加者】高柳蕗子、久真八志、飯島章友、HARUKA、千葉聡 


 今回のKabamyは「少年と庭、少女と廊下―千葉聡と佐藤弓生、比べ読み!」です。千葉聡さんと佐藤弓生さんの作品を読み比べて、二人の作風の違いを考えてみようという企画です。

 

(1)イントロダクション 
クイズ:次の五首のうち、千葉さんと佐藤さんの作品はどれでしょう?
(A)さびしいといえばさびしい真昼間の黒鍵のないピアノを鳴らす    笹井宏之
(B)よく揺れるピアノの譜面台に棲む傷も光もぬるい液体    千葉聡
(C)春の日の不可知を問えばとうとうとピアノをあふれくる黒い水 佐藤弓生
(D)わたくしのしずかなピアノが声をもちその翼には銀河もうつる 井辻朱美
(E)ふと星がやわらかくなりいもうとと夜のピアノをひきあったこと 加藤治郎

 

(2)進行の説明
・「作風」の一要素として、あるキーワードをどのように扱うか、を今回は考える
・「少年」「少女」「庭」「廊下」は千葉さんと佐藤さんが共通で他の作者よりも高い頻度で使うキーワードであることがわかった。
【闇鍋調べ】
少年率 他の作者0.54%   佐藤1.12%  千葉1.07% 
少女率 他の作者0.47%   佐藤1.29%  千葉1.21% 
庭率  他の作者0.3%   佐藤0.56%  千葉0.54% 
廊下率 他の作者0.2%   佐藤0.40%  千葉0.67% 

 

(3)キーワードマップを作ろう
・チームを作り、各キーワードを割り当てる(前半は「少年」「少女」、後半は「廊下」「庭」で行った。ここではまとめて記す)
「少年」チーム:千葉、HARUKA、久真
「少女」チーム:高柳、飯島
「廊下」チーム:HARUKA、高柳、久真
「庭」チーム:千葉、飯島


・各チームは、割り当てたキーワードから連想する物事を自由にたくさん挙げる
大き目の付箋に書いて、模造紙に次々貼っていきます。インターネットなどで調べてもOK。

 

・印象(雰囲気、感じ)の近いものをグループ化する。グループの目安は5ケ前後。
付箋をグループごとに貼り直してまとめていきます。


・各グループの「トーン」を一言二言で表して、分類する。
グループに見出しをつける作業です。各キーワードは以下のトーンに分類されました。
少年……「アクティブ」「憧れ」「悩み」「学」「成長」「冒険」
少女……「元気、強い、あかるい」「弱い、獲物、ターゲット」「脱少女」「神秘」「カワイイ」
廊下……「仮のいこい」「長い」「逃げ場がない」「嫌」「移動」「異界への道」「屋内」
庭……「植物」「動物」「庭にあるもの」「イメージ」「文学の庭」「現実の庭」

 

(4)作品をあてはめてみよう
各チームに割り当てキーワードを使った千葉・佐藤両作者の作品を書いた短冊を配布。歌の短冊を、作品がさきほど作ったトーングループのうち近いものに置いていき、テープで貼る。

 

(5)作者の特徴をずばり言おう
これまでの結果をもとに、「千葉作品の【キーワード】のトーンは〇〇、佐藤作品の【キーワード】のトーンは〇〇。なお二人とも〇〇なトーンからは遠い」という内容をまとめる。それぞれ代表的な一首を添える。以下は代表的な一首ととともに、近い分類がされた歌を掲載。

 

・少年
佐藤弓生作品のトーンは「ネガティブな成長」
例歌:翅乾きゆくをとどめ得ず少年は少年を脱ぐ夏の夜明けに
千葉聡作品のトーンは「ポジティブな憧れ」
例歌:少年のまなざし そこにあるものもそこにないものも見ているような
どちらの作者とも遠いトーンは「悩み」「学」

 

・少女
佐藤弓生作品のトーンは「脱少女」
例歌:海へゆく日を待ちわびた少女期を思えば海はいまでもとおい
千葉聡作品のトーンは「神秘的な強さ」
例歌:この夏も少女漫画の新人賞めざしてる君 虹食いながら
どちらの作者とも遠いトーンは「かわいい」

 

・廊下
佐藤弓生作品のトーンは「廊下そのものが異界」
例歌:土くれがにおう廊下の暗闇にドアノブことごとくかたつむり
千葉聡作品のトーンは「閉ざされた場所の仮の憩い」
例歌:完全下校チャイムは消えて廊下には日ざしの匂いの闇が生まれた 
どちらの作者とも遠いトーンは「嫌」

 

・庭
佐藤弓生作品のトーンは「イメージの庭」
例歌:胸に庭もつ人とゆくきんぽうげきらきらひらく天文台を 
千葉聡作品のトーンは「現実の庭」
例歌:野球部の試合後、中庭で大声で応援団の解団式あり 
どちらの作者とも遠いトーンは「(庭に)ありがちなもの」


(6)考察
・各チームの分析結果をもとに、作者ごとのキーワードとそのトーンの関係をより抽象化して「作者の言葉の扱い方」を議論してまとめる。


《会場意見》
・千葉作品の「少年」「少女」には共通して、主体が対象を見ている構図があった。一方で佐藤作品の場合は共通して「少年」「少女」になりかわったような語り口がみられた。この点も両作者の差ではないか。
・佐藤作品の「庭」は、そこから宇宙を見ていたりする。また「廊下」でも宇宙のイメージがある。これらの場所のイメージは、どこか別の世界への飛躍を果たす出発点や飛躍先として登場している。
・4つのキーワードをまとめたときの千葉作品の傾向。少年や少女は、主体的に変化を求めそれを果たすエネルギーを持った存在として登場する。そして廊下や庭は学校の風景として登場するとともに、彼や彼女らのエネルギーが溜まる場所でもある。主体はそれらの場所からエネルギーを感じ取っている。もしかするとそのエネルギーは再びその場を通る誰かに還っていき、循環するのかもしれない。
・4つのキーワードをまとめたときの佐藤作品の傾向。少年や少女はいずれも彼や彼女らのものではない、大きなエネルギーにさいなまれている。それは彼や彼女の望むものではなく、不可避で宿命的なエネルギーである。「廊下」「庭」などの場所は、そのようなエネルギーの存在する世界から飛躍し脱出するための出発点あるいは飛躍先そのものである。とはいえ、飛躍した先にも別のエネルギーがあり、また彼や彼女はさいなまれるかもしれない。

 

《参加者の声》
・初期段階では第六感的な嗅覚(推理・洞察力)を使わなくて済むのは吉。
いきなり作品を見るんじゃなくて、先に、比較する語の一般的な連想脈を全部出しておく、という順序が吉。その段階では推理、洞察といった能力を使わない。
・千葉さんと弓生さんとは、共通点があるという感じがせず、そもそも比較しようと思ったことがない。でも、というか、だから、というか、共通して多用する語句による比較は、やりやすいし、有意義な相違点を浮き彫りにしやすいとも思う。
・千葉聡における「校庭」がしばしば現実との接点※として使われるならば、佐藤弓生は、校庭じゃなくて、何を現実との接点にしているか、というふうに、比較をもっともっと展開したかった。
(記/久真八志)
 

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