Kabamyレポート(第二十六回)二〇一七年十月八日(日)
 於あんさんぶる荻窪(第1教室)
 

【参加者】高柳蕗子、久真八志、飯島章友、山下一路、法橋ひらく、こずえユノ、藤島優実、沢茱萸、前田宏
 
 今回のKabamyは「このゆびとまれ!スーパーアメフラシ!」です。山下一路さんの歌集「スーパーアメフラシ」を取り上げます。また2月のKabamyで開発した「このゆびとまれ!」という方式を採用しました。


※配布資料は左記のリンクまたはKabamyブログにて公開しています、
https://drive.google.com/open?id=1DPykN0Z23Q1fqL0-tq0TZ9q5Wi3cEAtN

 

〈進め方〉
・事前に公開でWebアンケートを実施する。
回答者は「スーパーアメフラシ」の抜粋三〇首のうち良いと思う五首を選ぶ。
また山下一路さんへのインタビューに対して「同感するか」を回答する。
・結果から、インタビューへの同感の度合いによって選歌傾向に偏りのある歌をピックアップし、理由を参加者が考察する。

 

〈アンケート結果の概要〉
インタビュー1
聞き手:市民運動に参加されているそうですが、どのような主張をお持ちですか?
山下:非戦、護憲(九条の非戦条項)は絶対だと思っています。


・「全く同感する」回答者の選が多かった歌
たんぽぽのぽぽひとつひとつに分散しぽぽそれぞれが春の軍隊 【P145】
あやまちのすべてを鳥のせいにして皆殺しにする飼育係は 【P13】
ボツボツの黄色い線のうえを歩きつづけて世界の外側にでて行く 【P125】
特快はもうありません酸素ボンベわすれた人は帰ってください 【P138】


・「あまり同感しない」「全く同感しない」回答者の選が多かった歌
すれすれな家族のあいだを削りつつ歯間ブラシがすりぬけてゆく 【P55】


インタビュー2
聞き手:運動に参加しているのはなぜですか?
山下:声をあげないでいると現政権の憲法改悪、戦争のできる国の方向を認めているように思われると嫌なので、機会を作って行動参加している。


・全く同感
この子がおまえの子だと先生に言われ教室の端に立つ参観日 【P148】
ボツボツの黄色い線のうえを歩きつづけて世界の外側にでて行く 【P125】
特快はもうありません酸素ボンベわすれた人は帰ってください 【P138】


・同感なし
かたわらに折り畳み式一生があり展がるたびに水がこぼれる 【P29】
二駅目で座れたのに目のまえにおばさんが立つ。死ねとばかりに 【P129】
回転をする世界ハマチ・ツブ貝・アボカド・イクラ戦争 【P70】

 

インタビュー3
聞き手:市民運動に参加しているけれど選挙運動はあまりお好きでないとうかがいましたが?
山下:あくまで一市民として、主張の合う運動に参加しています。昔から党派性が嫌いです。なぜなら、啓蒙的だから。ここでいう啓蒙とは「党が蒙昧な大衆を指導して階級闘争に勝利する」みたいな、旧いイメージです。市民運動が選挙活動に集約されてしまうのは、政党政治に主要部分を委ねることになってしまうので好ましくないのですが、今の時代に他に良い方法もないので「しょうがないか」と思っています。


・全く同感
押入れにかくれているの 母さんはごそごそさせてやがてカナブン 【P23】
残飯はルワンダほどにあるけれどホントに欲しいコンビニがない 【P102】


・同感なし
ゆずれない一線ひいてみろと少年にスゴまれている小さな砂場 【P64】
二駅目で座れたのに目のまえにおばさんが立つ。死ねとばかりに 【P129】

 

インタビュー4
聞き手:市民運動と作歌はつながっていますか?
山下:(験悗濃彖曚糧揚を目指すみたいなものとは距離を置いています。短歌を作るのは、世界とつながっていたいから。世界というのは社会とか他者とも言い換えられて、それらと自分との関係性を相対化しようとしています。現実の社会を土台にして生活していて、そこでの生きづらさや違和感を、自己の表出として作品に反映しています。
∋毀臼親阿呂海譴蕕隆蕎陲鮴治過程で現実化したいという自己の指示性としての欲求と考えています。


・全く同感
この子がおまえの子だと先生に言われ教室の端に立つ参観日 【P148】
順番に十階のフェンスを越えて子供が落ちる 飛べないのだ 【P113】


・同感なし
たんぽぽのぽぽひとつひとつに分散しぽぽそれぞれが春の軍隊 【P145】
ゆずれない一線ひいてみろと少年にスゴまれている小さな砂場 【P64】

 

〈参加者の考察〉
〇前田宏
「たんぽぽの〜」に、インタビュー1で同感する回答者の選が多かった理由は、「軍隊」という言葉の持つ猛々しさや恐ろしさを無化していることによって戦争に反対する層から支持を得やすかったためではないか。逆にインタビュー4で同感なしとした回答者の選が多かった理由は、「作歌が現実を反映させる必要はない」という価値観のもと、たんぽぽと軍隊の結びつきに詩を感じた層からの支持ではないか。


〇山下一路
「ボツボツの〜」に、インタビュー2で同感する回答者が多かったのは、歌意が日常行動からとらえやすい点によるのではないか。選をした回答者は、作者像と歌の主体をほぼ同じと捉えて理解しているためではないか。


〇沢茱萸
「この子が〜」に、インタビュー4で同感する回答者の選が多かった理由は、「文学において思想の発揚を目指していない」という見解への共感が回答者にあるからではないか。あまり社会的な立場から歌を読まない(詠まない)スタンスや、学校という場面設定のなじみやすさから票を入れたのではないか。

 

〇久真八志
「順番に〜」に、インタビュー4で同感する回答者の選が多かった理由は、「現実の社会を土台にしている」ことや「生きづらさや違和感」への共感がある層の支持ではないか。歌に生きづらさや社会への違和感が強いため。

 

〇高柳蕗子
「あやまち〜」に、インタビュー1で同感する回答者の選が多い理由は、勧善懲悪的な構図での解釈が成り立ちやすいからではないか。一部のリベラル派には、はっきりとした善悪で世の中を捉えるきらいがあるように思う。

 

〇藤島優実
「かたわらに〜」に、インタビュー2で同感しない回答者の選が多い理由は、自分が行動しても世界はあまり変わらないという、やや自己批判を含んだ気持ちがある回答者からの支持ではないか。「ひろがる」「ころがる」など自動詞の目立つこの歌には、現状をどうしようもできないという諦めも感じられる。

 

〇こずえユノ
「特快は〜」に、インタビュー2でやや同感する回答者の選が多い理由は、市民運動に参加するような、格差社会への疑問を大きく持っている層が支持しているからではないか。酸素ボンベの有り無しや都会など、特別な階級の人の特権を感じさせる歌であるため。

 

〇飯島章友
「かたわらに〜」に、インタビュー2で同感しない回答者の選が多い理由は、理念よりも現在の状況に応じて対応を考えるタイプの支持が集まったからではないか。「一生」や「水がこぼれる」という現実性に感応したのかも。

 

〇法橋ひらく
「二駅目で〜」に、インタビュー2と3に同感しない回答者の選が多い理由は、無力感や若干の被害者意識などに共感する人に支持が多かったからではないか。社会的な善とされる規範を守りたい、正しくありたいという気持ちがあり、それによって自分のしたいことが実行できない屈託があるのではないか。

 

〈参加者から〉
・事前アンケート結果の傾向から『スーパーアメフラシ』にアプローチしてみるという試みは新鮮でした。アンケートの回答者が一〇〇人くらいいればもっとはっきり見えてくるものがあったかもしれません。
・政治や宗教や社会問題の話はシャレにならないことが多く、ふだんは腹を割って話すことができませんが、今回のように、取り上げる歌集に関連づけて歌人たちの政治的・社会的傾向に踏み込めたことは、大変意義があったと思います。またそのアンケートのためにごじぶんの歌群を叩き台として提供されたばかりでなく、ごじぶんの政治的意見を事前に表明された山下一路さんは本当に凄い人だと思います。
・今回の試みで、相関を見いだすのはすごく難しい、とわかった。(中略)私という読者がたまたま作者の信念をひとつキャッチして、共感したとか、反感を持った、というようなことは、意味の薄い論点だ、とわかった。
(記/久真八志)
 

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