Kabamyレポート(第二十二回)二〇一七年四月十六日(日)
 於あんさんぶる荻窪(第1教室)
 

【参加者】高柳蕗子、久真八志、藤島優美、吉川満、白糸雅樹、木村友 


 今回のKabamyは「天使・噴水・飛行船 杉崎恒夫と井辻朱美比べ読み!」です。杉崎恒夫さんと井辻朱美さんの作品を読み比べて、二人の作風の違いを考えてみようという企画です。

 

(1)イントロダクション 
作者名を隠して井辻、杉崎、その他の作者の短歌を見せ、作者名を当てはめるクイズをしました。


・天使
佐藤弓生(A)これもまた天使 くまなくひらかれてこころをもたぬ牛乳パック
井辻朱美(B)甘藍を抱ける天使 生きるとは夢でなければ夢になるべし
杉崎恒夫(C)クリオネは氷のいろに透きとおり天使もどきに疲れてしまう


・噴水
井辻朱美(A)たてがみをひらけ椰子の木(アルハンブラにたったひとつの噴水のように)
杉崎恒夫(B)夏休みもおわりとなれり噴水は配水管のなかの休日
東直子(C)噴水のような約束十時ごろ雲公園にわらわらと人


・飛行船
杉崎恒夫(A)飛行船そなたを旅へかりたてるラグビーボールほどのたましい
光森裕樹(B)ビル背面をゆきてふたたび出て来ざるツェッペリン忌の飛行船かな
井辻朱美(C)銀の尻の象のごとくに浮かびいる飛行船など 秋の教室

 

正解率は半分ぐらい。意外に判定は難しいようです。ただし、同じキーワードを使った歌でもなんとなく扱い方、キーワードの醸し出す雰囲気が異なることがわかりました。

 

 

(2)進行の説明
・「作風」の一要素として、あるキーワードをどのように扱うか、を今回は考える
・「天使」「噴水」「飛行船」は杉崎さんと井辻さんが共通で他の作者よりも高い頻度で使うキーワードであることがわかった。
【闇鍋調べ】
「天使」率 全体:0.17%   杉崎:1.72%  井辻:1.03% 
「噴水」率 全体:0.13%   杉崎:1.41%  井辻:1.45%
「飛行船」率 全体:0.05%   杉崎:0.94%  井辻:0.72%
※母数……全体:63423首 杉崎:639首 井辻:1170首

 

(3)キーワードマップを作ろう
・3つのチームを作り、各キーワードを割り当てる
「天使」チーム:吉川、木村
「噴水」チーム:高柳、藤島
「飛行船」チーム:白糸、久真


・各チームは、割り当てたキーワードから連想する物事を自由にたくさん挙げる
大き目の付箋に書いて、模造紙に次々貼っていきます。インターネットなどで調べてもOK。連想された単語の一例は以下の通り。
天使……翼、性別不承、ラッパ、審判、救い、西洋
噴水……生命力、形をもつ、技術、公園、涼しい、石像
飛行船……冒険、爆発、広告、大きい、空、レトロ


・印象(雰囲気、感じ)の近いものをグループ化する。グループの目安は5ケ前後。
付箋をグループごとに貼り直してまとめていきます。
・各グループの「トーン」を一言二言で表して、分類する。
グループに見出しをつける作業です。各キーワードは以下のトーンに分類されました。


天使……光と愛情(光のような明るい愛情)、嬰児性と不老不死(永遠にこども)、翼、音楽、天国、宗教

K23-3


噴水……生きてるみたい、生命力、おどろき、西洋・反自然、娯楽(楽園)、人工

K23-1
飛行船……楽しい、あやうい、目立つ、大きい、ふわり、レトロ

K23-2

 

(4)作品をあてはめてみよう
各チームに割り当てキーワードを使った杉崎・井辻両作者の作品を書いた短冊を配布(各作者8枚程度)。歌の短冊を、作品がさきほど作ったトーングループのうち近いものに置いていき、テープで貼る。

 

(5)作者の特徴をずばり言おう
これまでの結果をもとに、「井辻作品の【キーワード】のトーンは〇〇、杉崎作品の【キーワード】のトーンは〇〇。なお二人とも〇〇なトーンからは遠い」という内容をまとめる。それぞれ代表的な一首をそえる。以下は代表的な一首ととともに、近い分類がされた歌を掲載。

 

・天使
杉崎恒夫作品のトーンは「翼を持て余している」
例歌:ぼろぼろの大き翼をもつ天使骨董屋のいうままに立ちおり
天使にはなり得なかったひと夏のかいがら骨の羽の痕跡
鶏小舎に飼われていたのはマルケスのぼろぼろ天使二月ふる雨
井辻朱美作品のトーンは「雌雄なき嬰児性」
例歌:アラビアの月の弧をなす眉というを思えり天使に雌雄なければ
純白のシクラメン立つ冬の隅 天使が鼻をかみすてたあと
こな雪のつつむ足もと太虚よりきりなく降る天使の喃語
どちらの作者とも遠いトーンは「愛情」

 

・噴水
杉崎恒夫作品のトーンは「身体をもつ生き物感」
例歌:噴水のシンクロナイズドスイミングたくさんの脚の立つ時のある
捩れつつ立ち直りつつ噴水を支えいるのは水の軟骨
噴水の立ち上がりざまに見えているあれは噴水のくるぶしです
井辻朱美作品のトーンは「勇ましいパワー」
ひとりではささえきれない碧空のため世界に無数の噴水あがる
数条の不滅のたましい噴水のたちあがるところ楽園となる
根源のなつかしさから立ち上がる巨神兵いな噴水の列
どちらの作者とも遠いトーンは「突然性/観光」

 

・飛行船
杉崎恒夫作品のトーンは「冒険への憧れと不安」
例歌:飛行船そなたを旅へかりたてるラグビーボールほどのたましい
こんなにも明るい秋の飛行船ひとつぶの死が遠ざかりゆく
飛行船が浮いている街 地下道をでてから方位狂いはじめる
井辻朱美作品のトーンは「壮大なもののはるけさ」
例歌:万象のそよぐ地上よりはるかにて飛行船とう無秩序の澄む
愛というこの世の温度ぬぐわれて天青【てんせい】の涯【はて】をゆく飛行船
かずかずのはるかさに生きるものたちよ 椰子の木 雨 そして飛行船
どちらの作者とも遠いトーンは「目立つ」

 

(6)発表
チームごとに結果を発表し、解説する。作者ごとに、キーワードとそのトーンの関係をより抽象化して「作者の言葉の扱い方」をまとめる。ここではまとめ時に出てきた意見を掲載します。
・杉崎さんの「天使」は人間に近く、井辻さんの「天使」は人間とは程遠い存在のように感じる。
・杉崎さんの「噴水」に感じる身体は、足に関連する単語も多く、二足歩行しそう。これも人間に近い。井辻さんの「噴水」に感じるパワーは、世界規模の楽園を支えるような、非常に大きなパワー。
・杉崎さんの「飛行船」は不安というネガティブなイメージは薄いのではないか。死がにおわされてはいるが、死はむしろ身体かの解放程度のイメージで、ポジティブでもネガティブでもなくニュートラルな雰囲気がある。

 

・以上より、杉崎さんと井辻さんの作風の違いを次のように結論付けた。
杉崎作品では、人間的な身体への意識が強く、かつその身体をなくした別の存在(たましいなど。人間ではないもの)が詠われる。井辻作品でも、人間を超越したものが詠われる。このとき、井辻作品では人間と人間ではないものとの間に階層があり、人間には到達できないその絶対的な断絶、距離感が作品の基底にある。一方で、杉崎作品での人間と人間でないもののあいだには階層がなく、地続きであり、容易に転換し得るように感じられる。両者を親和的に、等価的に描くのが杉崎作品の特徴である。


(記/久真八志)
 

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