Kabamyレポート(第十七回)二〇一六年四月三日(日)
 於阿佐ヶ谷地域区民センター(第5集会室)
 

【参加者】高柳蕗子、久真八志、山下一路、飯島章友、田村聖也
(購読会員)足田久夢 (ゲスト)温井ねむ
第十二回の Kabamyは「歌合」です。ちなみに今回の自己紹介ネタは「好きな形」。みんなの好きな形は、久真:五芒星、温井:正三角形、足田:六芒星、田村:丸、山下:台形、高柳:勾玉の形、飯島:陰陽大極図でした。

 

【進め方】
・赤チーム(1、2人)、青チーム(1、2人)、判者(1〜3人)、司会(1人)を決める。
・赤および青チームは、候補の歌のなかから、自陣の歌を一首選択する。
・赤チーム、青チームは、作戦タイムで攻め方/守り方を確認する(5分)
・バトルでは自陣の歌の魅力をアピールしつつ、相手の歌の弱点を突く(10分)
・判定では判者がどちらのチームの勝ちかを発表。基準は「どちらのチームの評が良かったか」 判定後、一言寸評を述べる。

 

【第1試合】
〈赤チーム〉田村、温井 〈青チーム〉飯島、山下
〈判者〉久真(司会)、足田、高柳
〈赤〉二十代後半戦を泳ぐため歯みがきガムは強く噛みなよ    千葉聡
〈青〉ガム味のガムを嚙んでる音によリ自己紹介とさせていただく 斉藤斎藤
赤:青の歌は自分をわかってくれというわざとらしさ、駄目押し感がある。赤の歌は自分に向かっていく目線の強さがある。弱い命令形にすることでわざとらしさも薄まっている。
青:社会人としての君は歯みがきガムをつかって汚れを落とせという大人からの上から目線がある。自分に向かってはいないのではないか。
赤:赤の歌は自分に対して歌っているのだがら押し付けではなく鼓舞である。二十代後半は前半よりも現実が迫ってくるはず。だからこそ頑張らなくてはいけないという思いを表現している。二十代後半の先の見えなさ、わからなさがあるので、歯みがきガムの具体性が対照的に効いてくる。
青:青の歌はガムが自己のメタファーである。噛むことでなんとか私性の音を出そうとしている。既成のものではなくガム味のガムということで抽象的な自分の状態を表現している。
〈判定〉赤2票、青1票で、赤チームの勝ち。
判者:評はどっちもどっち。その人の真面目さとか道徳的な方に転びそうだった。歌としては青の方が良いので、弱い方で頑張った赤に一票。
判者:歯みがきガムという具体的なものと、ガム味のガムという抽象的なものをどう説明するかにポイントがあった。後者の方が抽象的なぶんだけ弱点を突きにくいようだった。赤が攻めあぐねた分、青に一票。
判者:青チームは自陣の歌の良さを説明しきれなかった。私を見つめていると言う真面目な感じよりは、自己紹介の慇懃無礼さが重要ではないか。青チームはそこに説明が及ばなかったので赤に一票。

 

【第2試合】
〈赤チーム〉高柳、久真 〈青チーム〉足田
〈判者〉飯島、山下、田村 〈司会〉温井
〈赤〉星を喰ふ星がつひには喰ふひかり光のなかを吾らはあゆむ 光森裕樹
〈青〉共食いでザリガニ釣りしあの夏の爆弾池はいまもゆうやけ 小高賢
赤:星を喰う星はブラックホールのことだろう。その喰われる光の中を私たちが歩む、つまりいずれ私たちも喰われる。時間的にも空間的にもスケールが大きい歌である。
青:少々残酷なことを無邪気に楽しめた子供時代を思い出させる。共食いという割には暗いイメージがない。爆弾池とは軍隊から接収された空き地など、軍隊に関連する土地を思わせる。戦後を想起させることでノスタルジーがある。一方で夕焼けの赤は血をも思い出させ、怖いような懐かしいような独特の雰囲気のある歌になっている。
赤:夕焼け(光や赤い色)を戦争とノスタルジーに絡めるのはよくある処理の仕方ではないか。
青:大人が戦争の悲惨さを訴える目線はなく、子供の目線で戦争を見ているところに面白みがある。戦争嫌いの戦闘機好きのような二重性があり、宮崎駿の作品をも思わせる。
赤:青のように個人の体験を夕焼けで処理すると、見飽きたような詠嘆に落ちてしまう。赤の歌は詠嘆ではなく、進行形であり、臨場感がある。
青:ブラックホールの脅威に臨場感は感じないように思う。喰らうにも現実感が感じられない。
赤:ブラックホールそのものを読んでいるわけではなく、アメーバがアメーバを食べるなど、動物的な現象を読んでいると捉えてもよい。大きなもののなかに臨場感を出している。冒頭の「星を喰う星」でよく知っているイメージにつなげている。「喰う」と言う単語が生きている。
〈判定〉赤1票、青2票で、青チームの勝ち。
判者:青の歌の解釈をうまくできている。赤チームの歌の解釈は一般的な摂理の説明に留まっていたので青に一票。
判者:赤チームは事前のすり合わせが足りず、二人の意見に一貫性がなかった。青チームは一人なので一貫性があった。宮崎駿を例に出したフレーズもよかったので青に一票
判者:青は詠嘆で終わっているが、赤が進行形という評に説得力があった。赤に一票。

 

【第3試合】
〈赤チーム〉足田、久真 〈青チーム〉飯島、温井
〈判者〉田村(司会)、高柳、山下
〈赤〉問十二、夜空の青を微分せよ。街の明りは無視してもよい 川北天華
〈青〉料金所手前で僕は降ろされて驚くほどに星は綺麗だ 和里田幸男 
青:赤の歌は「問十二」がなんでもいい。数学の問題文の定型を使っていてありふれたパターン。この作者が作る意味が見出せない。
赤:十二という数字は特異的。十二進法で時間も表すし、角度(360)も十二の倍数。また音の収まりの良さもある。
赤:問題文の定型を使って、読者になじみのある導入である。微分せよは「よく見ろ」ぐらいの意味であり、次に街の明かりを無視せよという。一連の言葉で読者の脳内に「読者の思う一番きれいな星空」をイメージさせるような操作を行わせるのがこの歌のポイントである。一般の短歌はその人だけが作れるものを重視する価値観があるが、赤の歌は異なる。
青:青の歌は料金所手前で降ろされる不自然さ(非日常)から、星のきれいさと言う日常の再発見につながっている。
赤:驚くほどという言葉は要るのか。
青:「驚くほどに」というのは、「これは驚くほどのものだ」という冷めた、冷静な目線がある。その綺麗さに行きつけなさが、料金所の手前というところと呼応している。
〈判定〉赤2票、青1票で、赤チームの勝ち。
判者:赤の歌の問十二に対するチームの見解がかみ合っていなかった。青チームの評は星の綺麗さについての解釈がポイントを捉えていた。青一票。
判者:赤の、読者にとっての一番きれいな星空を思い浮かべさせるという評に説得力があったので赤に一票。
判者:青チームの歌の解釈がちゃんと示されていなかった。赤チームの歌の解釈に青チームが切りこめなかったので赤に一票。

 

【第4試合】
〈赤チーム〉高柳、田村 〈青チーム〉山下
〈判者〉足田、温井、久真 〈司会〉飯島
〈赤〉いぬのへそ見つけてごらん母いぬが噛み切つたあとのすずしいへそを こずえユノ
〈青〉淡雪をあるけば臍(ほぞ)があたらしい 空と抱きあう力士に出会う 東直子
赤:赤の歌は導入で普段見たことのない犬のへそに着目させる。そのうえで意外な展開につなげている。噛み切ったあとをすずしいということで、血が付いたドロドロしたものを新鮮なイメージでとらえ直している。
青:青はイメージの歌。淡雪や臍に実景としての関係性はないが、透明さを感じさせる。下句で像と像が衝突している。臍があたらしい、には「私」が生まれてくるという意味がある。
赤:犬は臍を自ら切ることで、親子のつながりを切るともいえる。この歌は親子が切り離されるときの涼しさを表現している。
青:青の歌の下句のイメージは作者の独自性がよく出ている。上句はそのイメージを強めるための修辞である。力士は上半身裸なので臍とも関連がある。言葉の持つイメージをふくらませているところに価値がある。
赤:犬の臍にフォーカスしてから母との関係に展開していくのは、斬新な映像が浮かぶわけではないが、普段目を向けないところに目を向けさせて想像させるので広がりがあるといえる。
〈判定〉赤2票、青1票で、赤チームの勝ち。
判者:青の歌のイメージのつながりはわかるが「力士に出会う」でどんなイメージに完結するのかを聞きたかった。赤は破綻がなかったので一票。
判者:赤チームの解釈に同調できない面もあるが「すずしい」の一点で説明を試みられていたので赤に一票。
判者:青の歌について、実景を想像しようとしてわからなかったので、上句は下句の修飾なのだという説明には納得がいった。難しい歌に挑戦したと言う加点もあり青に一票。
 

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